京の起業家 No.31
夏号に登場いただきましたQUESTION様のご紹介で、靴磨き・修理の「革靴をはいた猫」の魚見航大さんにお話を伺いました。たくさんの想いや物語を感じる素敵な靴磨き屋さんです。
株式会社革靴をはいた猫
代表取締役 魚見航大(うおみこうた)さん
一度磨いた靴は一生面倒を見る
京都市役所前の店舗と大丸百貨店京都店でスペースをお借りして靴磨きと靴の修理をやっています。靴磨きは、賛同を得た企業へ出張して実施することもあります。役員3名、従業員3名の他見習いが6名という陣容です。
手放す貢献プロジェクト
また大丸百貨店さんと一緒に「手放す貢献プロジェクト」をやっています。大丸百貨店で、お客様が履かなくなった靴を寄付していただき、修理をしてメンテナンスカード付きで販売します。例えば5千円の販売価格であれば、靴の値段が5千円ではなく、5千円分の修理などメンテナンスがセットされています。私たちは「一度磨いた靴は一生面倒を見る」という考え方を持っており、お客様との関係性を作りたくてあえてこういう形にしました。
障がいがあっても自立できる
龍谷大学在学中に、障がいのあるメンバーが働くカフェの運営を手伝っていました。そのカフェの代表者が、靴磨きなら障がいがあっても一生の仕事としてやっていけるのではと考えていました。私もその思いに共感し、実践するため靴磨きの専門業者に他のメンバーと一緒に学んだことがきっかけです。当初は障がいのあるメンバーに教えてあげようとしていたのに、逆に自分自身のいろいろな部分が引き出されて成長していく、障がいのあるなし関わらず挑戦する場があれば人は変わっていくということを実感しました。卒業後は大学院に進学予定でしたが、仲間と一緒に活動を続けたくて、「やらなければ絶対後悔する」という思いに突き動かされて、在学中の2017年に会社を立ち上げました。
たくさんの応援者に支えられて
すべて人とのつながりのおかげですね。今の店舗はデジタルプリントのお店の一部を間借りしています。先ほどお話しましたカフェ代表の旦那さんのご紹介です。私たちの活動に賛同してくれた店主さんが快く貸してくださっています。大丸とのご縁も私たちの活動を良く知る常連さんのご紹介で始まりました。
いつも苦労しています。特に資金繰りが大変ですね。メンバーが増えて、できることも増えたけれど必要な資金も増えて。特にコロナ禍の昨年は予定していた事業がすべて中止になるし、企業への出張靴磨きも中止になるしで大変でした。融資はもちろん受けていますし、クラウドファンディングもやったし、知人からお金を借りたこともあります。ただいろいろな経営者の方に教えを乞うて、ようやく商売というものが少しずつ分かってきました。出ていくお金と入ってくるお金のバランスの重要さを痛感しています。
商社で靴磨き
技術を教え、職人を育てて障がいを持つ人でも挑戦し、働ける場づくりをしています。大阪の阪和興業株式会社という障がい者雇用に力をいれておられる商社にご賛同いただきまして、私たちのところで修業したスタッフ2名を靴磨き職人として雇っていただいています。
阪和興業さんにはとても私たちの活動をご理解いただいていまして、靴磨きの出張も行かせてもらっていますし、お取引先もご紹介いただいています。出張靴磨きでは、会議中に靴を磨いて、会議終了後は靴がピカピカになって戻ってくるサービスで、ご好評いただいています。
自分たちだからこそできるサービスを磨いていく
自分たちの強みを磨いていくことですね。私たちの靴磨きは、ウィスキーとワックスを混ぜてつま先をピカピカにする鏡面仕上げを施しています。ただこの技術自体は靴磨き屋であればどこでもやっていることです。技術そのもので差別化は難しいけれど、私たちの強みは人だと思っています。常連さんにジョッキーの武豊さんがいらっしゃいますが、うちの店に通う理由を「雰囲気いいからね」とおっしゃってくれました。他のお客さんからおっしゃっていただいたのも「ひとりひとりが全然違う。会話も違うし仕上がりも個性がでる。」そういったコミュニケーションや仕上がりの個性を楽しんでいただいているのかもしれません。狙ってできることではないけれど、そんな人が醸し出す雰囲気を大切にし、私たちだからこそできるサービスを磨いていきたいです。
(取材 佐藤 智美)
■株式会社革靴をはいた猫 上記店舗以外に大丸京都店5階でもショップを開設しています。(期間:2022年2月まで)
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