京都府商工会連合会よりご紹介をいただき、「urujyu(ウルジュ)」を平成27年3月に京都府南丹市で開業し、平成29年に亀岡市に本拠地を移された清水愛(しみず あい)様にお話を伺いました。
「日本の伝統的な漆器を多くの人に使ってもらい、文化として継承する」、「漆器を作る技法を次の世代に伝える」、「漆器の原料となる漆の生産量を回復させて、生産地の漆を使った漆器の製造が可能な環境を残す」、の3つの目的を持って事業に取り組んでいます。
具体的な事業内容としては、漆器製品・金継ぎキットの制作・販売、金継ぎ教室の開催や個別の金継ぎ受注業務などを行っています。また、起業前からの関わりですが、「NPO法人丹波漆」に参画して、植林や作品展、シンポジウムの開催など、国産の漆が生産できるようにする環境づくりに取り組んでいます。
平成14年から漆について学び始め、京都の漆作家のもとに4年半の弟子入りを経て平成20年に個人作家として独立しました。その後、平成27年にurujyuを起業しました。
個人作家のときは作品づくりが主で兼業での活動であったのですが、漆を初めて10年の節目に京都漆器組合の漆器展で受賞をしたこともあり、漆に専念することを考えたのが起業のきっかけです。起業にあたって、先述の3つの目的を掲げました。
起業を考えた時期に商工会に相談に行ったのが最初で、展示会への出展やurujyuとしてのブランディング、商品のパッケージデザイン、ろくろ設備の導入、近年取り組んでいる海外販路開拓など、様々なことで支援を受けました。経営支援員の方からのアドバイス・情報提供や、専門家を派遣いただいての指導などで、継続的にお世話になっています。特に現在は一人で事業に取り組んでいるため、経営の相談相手としてなくてはならない存在です。
海外ではお皿の大きさや形、外食の頻度など食文化の違いがあるため、現地に精通したコーディネーターと共同で企画を進めています。以前に金継ぎ教室の短期コースを受講されたドイツ人からの紹介を受けて、12月にドイツとフランスで金継ぎワークショップの開催を計画しています。あわせて、ギャラリーや学校との関係づくりを行い、次の展開にもつながればと考えています。ワークショップの英語教材は独自に製作いたしましたが、各国語への翻訳は対応ができていないため、今後、インターン生に依頼してやってもらうということも考えています。
継続的に雇用して、仕事をしてもらうという面で、難しさを感じています。起業して間もなく、学生さんに3年弱ほどアルバイトで来てもらいましたが、その方が大学を卒業してからは、海外からの短期インターンの受け入れに切り替えました。結婚、妊娠、出産など自身のライフステージが変化する中で、漆器の製作はペースを落とし、金継ぎワークショップに特化するよう事業も変化してきたのに合わせて、人に仕事をしてもらいながら事業を進めるのに良いバランスを常に模索しています。
現在は育児と仕事のバランスをとりながらのため、今まで通りの時間の使い方ができないもどかしさがありますが、一方で、これまでの経験から事業の選択と集中をする判断基準も磨かれてきました。これまで仕事をご一緒させていただいた方々とのご縁を大切に、柔軟な発想で次の展開を考えていきたいと思います。
漆器やその原料となる漆を国内で生産し、漆器や金継ぎの文化が受け継がれ、産業として循環する状況が当たり前になるような未来を思い描いています。海外進出に取り組み始めて強く感じますが、西欧では金継ぎのブームが起きており、urujyuの活動が、海外も巻き込んだ漆文化循環のネットワークのひとつのハブとしても機能できればよいと考えています。
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【南丹市商工会 経営支援員 古田孝之氏より】
京都らしい「はんなり」した言葉遣いや表現が印象的な清水さん。商工会には起業当時からご相談いただいており、現在は海外への販路開拓に関するご相談を多く受けています。ライフスタイルに沿った独自の経営スタイルを確立され、自身のやり方やペースに合わせて事業を展開されており、その取組からは現代人が忘れかけているヒトの温かみやモノを大切にする心が感じられ、私自身とても共感しております。これからも応援しています!
(取材:松下 晶)
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