京都商工会議所よりご紹介をいただき、京都で「株式会社テクサー」を平成28年10月に起業された代表取締役社長の朱強(しゅ きょう)様、取締役CTOの今井正治(いまい まさはる)様にお話を伺いました。
朱氏)私は中国の出身で、日本に留学して大阪大学で半導体設計について研究していました。その時の恩師が今井先生です。以来、私は奈良先端科学技術大学院大学、富士通研究所、ケイデンス・デザイン・システムズ社と一貫して半導体関連の研究職についていましたが、かねてより起業したいとの思いがあったこともあり、自身の専門であるソフトウェア設計を強みとして活用でき、かつ、将来期待できる市場規模が大きいIoT(Internet of Things)分野での起業を決意しました。
今井氏)私は平成28年3月に大阪大学を定年退職したタイミングであっため、朱さんと一緒に事業を立上げることにしました。
朱氏)IoTに関する様々なサービスの提供です。IoTの構成要素は3つに集約できます。①センサーエッジ(クラウドサービスの端末に相当するもの)、②ネットワーク、③AI等によるデータ解析です。これらの領域に関して、我々の専門であるソフトウェア技術や海外で先端的な機器を開発しているベンチャー企業等とのパートナーシップにより、独自性の高いサービスを提供しています。
例えば平成29年には、京都三条会商店街様向けのショッピング・ナビゲーション・システムとして「iLoca(イロカ)」というスマホアプリを提供しました。これは、お客様の物理的な位置を測定し、それにもとづいてお客様に商店街や商品の情報を多言語(日・英・中)で提供したり、クーポンを発行する機能を持っています。また同時に、展示会来場者の各ブースへの訪問履歴や動線を収集してデータ解析する「展示会データ解析システムEXAS(エクサス)」もリリースしました。
また、低消費電力で長距離通信を実現できるZETA(ゼタ)というLPWA(Low Power Wide Area)IoTに適した通信ネットワークの規格があります。平成29年12月にはZETAの日本での技適(設計工事認証)を取得し、着実に事業化を進めています。
ZETAの特徴は基地局と中継器を組み合わせてメッシュ状のネットワークを構成できる点です。これによって、障害物が多い市街地でも少ない台数の基地局で広い範囲をカバーできます。LPWAの競合規格であるSigfoxやLoRaWANなどには中継器という概念が無く、ZETAはこれらの規格と比べて技術的・コスト的な優位性を持っています。基地局や中継器の通信距離も市街地なら1~2km、見通しが良いところでは10km程度と広域をカバーできます。中継器は電池で5年~10年程度稼働させられるので、設置場所の選択肢が多いというメリットもあります。中継器の価格は基地局の価格よりも一桁以上安価なので、ZETAを用いることにより、IoT用の大規模な通信ネットワークを低い導入コストで構築でき、運用コストも低く抑えることが可能になります。
ZETAの応用は、高齢者や児童・生徒の見守り、空き家管理、違法駐車監視、災害時の情報提供など広い範囲に及びます。例えば、九州のある山間部では、ZETAをチョウザメの養殖場管理のための水温・水位等のデータ収集・蓄積に応用する実証実験を開始しています。また現在、スマート・ソサイエティを実現するための様々な実証実験の準備を行っているところです。
朱氏)IoT用の通信ネットワークのインフラ事業を進めるには、当社の資金面、体制面での規模が小さすぎることです。そのため、当社は、当社の強みを活用したい大手の企業様とWIN-WINのパートナーシップを締結しています。今後、実績を積み重ね、さらに認知度を向上させたいと考えています。
朱氏)起業当初からいろいろなアドバイスをいただいて来ました。最近では、平成29年12月に、前述した「iLoca(イロカ)」のの正式運用開始とクリスマスイベントの開催にあたり、プレスリリース実施のご支援をいただきました。
今井氏)記事はまず京都新聞に掲載され、その波及効果で全国紙(日刊工業新聞、産経新聞、日経新聞)にも取り上げていただき、これらの記事がYahoo!NEWSにも載りました。特に日経新聞は全国版の夕刊の1面で、某S社の犬型ロボットの記事の隣に掲載していただきました(笑)。新聞記事を見た投資ファンドや銀行などからもお声がかかり、ビジネス・マッチング等にもつながったため、非常にありがたかったです。
朱氏)当初資本金300万円、私と今井先生の2名体制で始め、現在は8名体制です。最初に京都市スタートアップ支援ファンド(京都市、フューチャーベンチャーキャピタル、中信、京信等による)に出資いただいてから、様々な金融機関からの融資やファンドの出資を受けることができました。KRPには平成29年8月から入居しています。
朱氏)ZETAの機器は機能面での完成度は高いですが改良の余地もあり、日本のメーカーと組んで小型化などに取り組みます。当面は日本での事業拡大に注力しますが、将来的にはアジア、ヨーロッパ、アメリカと海外に展開することも視野に入れています。ZETAは世界水準でも高い技術的優位性があると確信しています。
また、今後の事業化に向けて、IoTの端末にディープ・ラーニング技術を使ったAIのエンジンを搭載して音などの情報を解析してからクラウド上のサーバに送信する「スマート・センサエッジ・システム」の研究開発を行っています。この技術は、たとえばエンジン音からの異常検知や故障予知、医療やヘルスケアなど、幅広い応用分野を持っています。IoT技術を応用した様々なサービスを提供することによって、安全、安心、便利で快適なスマート・ソサイエティの実現に貢献し、いずれは株式上場も実現したいと考えています。
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【京都商工会議所 経営支援員 梅影氏より】
本所が開催した「創業全力応援フォーラム」に参加されていた今井取締役に、交流会でお声掛けしたのが支援のきっかけです。当初から経営面や技術面がすぐに自走できるほど確立されていたのが印象的です。生産性向上や災害時対応などの社会課題の解決に資する事業を推進されており、近い将来IoTを強力に推進するキープレイヤーに成長されると確信しています。今後も同社の将来ビジョンに則した支援で関わらせていただきたいです。
(取材:松下 晶)
株式会社テクサー(Techsor Inc.) |