京都産業21よりご紹介をいただき、京都でゲストハウス「御旅庵(おたびあん)」を平成28年1月に起業されたオーナー福原洋子様にお話を伺いました。
そもそものきっかけとしては、20代の前半にまでさかのぼります。バックパッカーとしてオーストラリアやアジアの国々を1年間旅行でまわったときに様々なゲストハウスに泊まり多種多様な国の人と交流した経験により「このような場を自分が運営できたらいいな」と考えることがありました。とは言え、その後しばらくは仕事や結婚生活などに一生懸命となり、ゲストハウスのことはすっかり忘れてしまっていました。今から10年ほど前にふと、主人にゲストハウスを起業することについて相談したときも、子供が小学生でまだまだ手がかかるため実現にいたりませんでした。
そして、起業の約3年前、子供がある程度手を離れたタイミングで、思い立って物件探しを始め、この築百年の京町家とめぐり逢いました。自分の思い描いていた10人程度が泊まれるゲストハウスにぴったりで、自宅から徒歩数分だったため家庭生活との両立もしやすく、理想的な物件と思いました。主人も物件を見ると乗り気になり、たまたまご縁のあったリノベーション会社に早速見積もりを取りました。30年も空き家だったため中を見学するのも大変な状況でしたが、「ここでゲストハウスの女将をする」というイメージは当初からはっきりと思い描けました。
ゲストハウスの起業準備を進めていた平成27年に、京都産業21が主催されている起業家セミナーを受講しました。コンセプトづくりから売上・収支計画の立て方、集客方法など起業にあたり大切なことを網羅的に学ぶことができました。事業計画は何度も書き直しをすることになり厳しさを痛感しましたが、妥協の無い指導がとても有難かったです。
セミナー終了後も京都産業21の担当の方から継続して支援を受けることができ、中小企業診断士や税理士など専門家の先生からのアドバイスも随時いただき、補助金申請のサポートも受けることができました。
最も苦労したのは集客です。集客手段はネットに絞っていたのですが、起業から半年くらい、4~5月の観光シーズンを除いてはなかなかお客様が来ず頭を抱える日々でした。それでも来ていただいたお客様にご満足いただけるよう誠心誠意のサービスを提供することで、徐々にTwitterやFacebookなどSNSの口コミ新規客や、リピートのお客様が来てくださるようになり、目標の稼働率を達成することができるようになりました。
お客様に特別な体験をしていただけるよう、内装にはこだわっています。近隣の名所である東寺の桜ともみじをあしらった清水焼や岐阜県のタイルを用いた洗面台、また、大工さんに創意工夫で造作していただいた収納やベッド、シャワー室、既存の建具を再利用したドアなど、どれも思い入れがあります。また、つくりつけのベッドには快適に眠れる高反発マットを使用し、比較的年配の方が身体をゆっくり休めていただけるよう配慮をしました。
また、私ももともと旅行が好きなためお客様目線でのサービスを心掛けています。団体のお客様のように自分たちで楽しみたい場合はなるべくお構いはせず、一方で、一人旅の方で旅の情報を得たい方やコミュニケーションをとりたい方とは遅くまで話しこむことも多く、お客様のニーズに合わせた接客をしています。
おかげさまで若い方から年配の方まで、国内外問わず幅広い方にご利用いただいています。また、オーナーが女性ということをホームページ等で発信しており、旅行に不慣れで不安を抱いている女性客にご利用いただく機会も多いです。百貨店の催事や学会などお仕事で来られる方もあり、様々な理由で京都を訪れる方がいることを知るのも面白く、ゲストハウスを経営する醍醐味を感じています。
まずは、60歳の節目までゲストハウスを継続することを目標としています。そのためには自分の健康を第一に、家族のサポートも受けながら無理をしないこと、稼働率も高すぎるとサービスが行き届かなくなるため、ほどよい加減を維持することで品質を担保しています。また、隣接した住宅街に立地しているため、町内会への参加や消灯時間の厳守、深夜に騒ぐお客様への毅然とした対応など地域への配慮も徹底しています。これからも、お客様にとって「親戚のおばあちゃんち」のようなほっとする空間、また帰ってきたくなる御旅庵を女将として盛り立てていきます。
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【京都産業21 補助金担当者より】
福原さんは、若いころにオーストラリアやアジアを周遊した際の経験から、ゲストハウスの経営を夢見てこられました。今回の起業は、その夢を実現するものでした。様々なご苦労もあったと思いますが、起業家セミナーを受講するなど夢の実現のため、積極的に取り組んでこられました。ゲストハウスは、築100年を超える古民家を改修したものですが、その雰囲気を大切に残しつつ、宿泊された方が快適に過ごしていただけるようにという福原さんの細かな気配りを感じていただけると思います。
(取材:松下 晶)
京都ゲストハウス 御旅庵 |